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【小説】葉室麟「刀伊入寇 藤原隆家の闘い」:平安時代

刀伊入寇 藤原隆家の闘い

刀伊入寇 藤原隆家の闘い

「覚悟いたされよ」
 隆家の放った矢が花山院の車に向かって飛んだ。簾を突き抜けた矢は車の中にいた花山院の袖を射抜いた。
 花山院は真っ青になって震えあがった。
「隆家はわしを殺すつもりだぞ。退け、退くのだ」

データ

主人公:藤原隆家
主な歴史人物:藤原伊周、花山法皇藤原道長安倍晴明藤原定子清少納言、平致光、大蔵種材
時代背景:平安時代
 長徳元年(995年)3月 - 寛仁3年(1019年)12月

紹介

 中関白・藤原道隆は権力の絶頂にあった。嫡男の伊周は有望で、娘の定子は天皇の后となっていた。しかし、道隆の子・藤原隆家は朝廷の権力争いになじめず、強敵を求めて武芸を好む変わり者であった。
 藤原家と深い因縁を持つ花山法皇は素行が悪く、伊周・隆家の兄弟とたびたび闘乱を起こした。法皇は素性の知れない異形の武者たちを飼っており、「とい」と呼ばれた彼らと隆家は不思議な因縁で結ばれていく。

 学校の授業で刀伊の入寇を習ったとき、それを迎え撃った太宰権帥の隆家が御堂関白・藤原道長の甥で、しかも花山法皇に矢を射るほどの暴れん坊だったと知って衝撃を受けたものである。
 この時代を扱っている小説自体が少なく、刀伊入寇が題材となるとほぼ存在しないと言ってもいい。その題材に目を付けた眼力はさすがで、叔父藤原道長との権力闘争や花山法皇との因縁、王朝文化になじめない武人の隆家のやるせなさなどが新鮮。
 しかし、刀伊と藤原隆家を宿命の対決と見せたいあまりに、それまでにちりばめられた因縁があまりに卑近過ぎて、刀伊関連の下りだけ剣客小説になったかのようなスケールの小ささを感じるのがやや残念。花山院が私兵として刀伊を使い、攻め寄せる刀伊の頭目が隆家その人と刀伊の娘の間に生まれた子供というのはもはや講談の世界であり、歴史小説然とした宮中パートとのチグハグ具合の食べ合わせが非常に悪い。
 その一方で安倍晴明清少納言紫式部といったおなじみの平安文化人たちが隆家と交流し、枕草子紫式部日記から引用したエピソードを語るのは、小説の中で読むと原典とはまた違った趣があって面白い。道長をはじめとした宮中貴族たちのキャラクター造形が良い分、彼らと隆家の交流でじゅうぶん間が持ったのではないかと思ってしまう。
 不良貴族の隆家が法皇にその身も顧みず喧嘩を売り、大騒動を巻き起こすさまは名著『殴り合う貴族たち』も参考にしているだけあって、ドタバタコメディの様相も呈して平安貴族たちの知られざる一面を見ることが出来た。

時代設定

冒頭の隆家と乙黒法師の会話が長徳元年(995年)3月。
隆家の大宰権帥任期切れが寛仁3年(1019年)12月。

書誌情報

著者:葉室麟
タイトル:刀伊入寇 藤原隆家の闘い
出版社:実業之日本社
出版年:2011.6
備考:

関連作品

本作の参考資料の一つ。平安貴族たちの知られざる暴力的な側面を紹介する。

平成13年度(2001年)大河ドラマ北条時宗』の原作。本作からおよそ200年後、モンゴル帝国が博多に攻めてきた「元寇」の時期、鎌倉幕府の執権であった北条時宗を主人公とした作品。
身内の権力闘争と外敵との戦いという主題、ファンタジー要素など本作とイメージが被る部分が多い。

時宗 巻の壱 乱星 (講談社文庫)

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