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【小説】津本陽「龍馬残影」:江戸時代(幕末)

龍馬残影 (文春文庫)

龍馬残影 (文春文庫)

 高柳は才谷の嵩にかかった態度を、はじめて見た。
 それまで、高柳は才谷に好感を抱いていた。才谷が策略を用いるのは、わが立場に窮したためで、本来は物事に公平な判断をする人物であろうと見ていたためである。
 だが、このときになってはじめて不快の思いを抱いた。
 ――この男は、こっちの証言を二つ取って、それで談判に勝つつもりになってるのう。二つともごたがいの黒白を決するのに、何の役にも立たんものや。それをどうするつもりでいてるんか知らんが、横柄な口をきくものや――

データ

ジャンル:歴史小説
主人公:高柳楠之助、国嶋六左衛門
主な歴史人物: 才谷梅太郎坂本龍馬)、後藤象二郎五代友厚
時代背景:江戸時代(幕末)
 慶応2年(1866年)5月末 - 慶応3年11月15日(1867年12月10日)

紹介

 公務のため長崎へ向かっていた紀州藩(現・和歌山県)の明光丸は、備中六島沖(現・岡山県笠岡市)で一隻の船と衝突した。相手の船は伊予大洲藩(現・愛媛県大洲市)のいろは丸であった。いろは丸は沈没し、乗組員たちは明光丸に救出され備後鞆港(現・広島県福山市)に入港した。衝突の非はいろは丸方にあることは明らかであり、明光丸艦長・高柳楠之助もいろは丸の代表者・才谷梅太郎には気の毒なことだが、仕方ないことだと思っていた。
 しかし、才谷の正体が長州の桂小五郎や薩摩の西郷吉之助と太いパイプを持つ坂本龍馬であり、彼の率いる海援隊が長崎の街を牛耳っているということを知ったことにより自体はきな臭くなる。長崎奉行所の採決を強行に求める才谷は、言を左右にし、事を荒立て、暴力の影さえちらつかせながら沈没したいろは丸とその積み荷の賠償を紀州藩に迫ってくるのだった。

 歴史上の偉人というものの中には、理想に邁進しすぎて周囲の人間に迷惑を掛けたり、意図的に利用して使い捨てても一顧だにしないというヤツがわりといる。本作に出てくる才谷梅太郎こと坂本龍馬もそのひとり。
 世間ではなんとなく、義に厚い好人物みたいなイメージをなぜか持たれているが、いろは丸事件の龍馬の言動はとにかくあくどい。
 自分で事故を起こしながらも証拠はないと言い張り、明日から仕事ができないどうしてくれるんだと詰め寄るのは当たり屋のやり口である。更に悪いことに、背後には海援隊という血気盛んな圧力団体まで従えていて、さながら暴力団。こんな奴にたかられた紀州藩は気の毒というほかはない。
 そもそも海援隊は、船を手に入れるときにも大洲藩をうまく丸め込み、詐欺師さながらの値付けと運用を申し出てまんまとだまくらかしている。坂本龍馬は大した商売人であった。
 それでも坂本龍馬の魅力は減ずることはないし、清濁を併せのむ経営者としての龍馬の新たな一面を知ることができる一冊と言える。

時代設定

いろは丸沈没事件が慶応3年4月23日(1867年5月26日)。
いろは丸沈没の善後策を坂本龍馬紀州藩士が話し合ったのが慶応3年10月5日(1867年10月31日)。
大洲藩がいろは丸購入を計画したのが慶応2年(1866年)5月末。
国嶋六左衛門が密葬されたのが慶応3年1月2日(1867年2月6日)。
あとがきの坂本龍馬の暗殺が慶応3年11月15日(1867年12月10日)。

書誌情報

著者:津本陽
タイトル:龍馬残影
出版社:文藝春秋
出版年:1997.10
備考:


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