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【小説】司馬遼太郎「夏草の賦 上」:戦国時代

夏草の賦(上) (文春文庫)

夏草の賦(上) (文春文庫)

 元親は、最初は千翁丸をやろうとおもったがそれをやめたということを、正直にいった。
「まあ」
 当然、菜々は気分をわるくした。
「千翁丸と私のいのちの重さをはかって、私ならば死んでもかまわぬ、とお思いになったのでございますか」
「そう思いはせぬが、結果としてはそうなるな」
 だから菜々に悪いと思い、こうも顔色がすぐれぬのだ、と元親はいった。
「やめた」
 菜々は叫んだ。
「待った、待った」

データ

ジャンル:歴史小説
主人公:長曾我部元親、斎藤菜々(元親夫人)
主な歴史人物: 斎藤内蔵助(斎藤利三)、福留隼人(福留親政)、本山親茂、安芸国虎、一条兼定、土居宗珊
時代背景:室町時代(戦国時代)
 永禄6年(1563年)秋 - 天正9年(1581年)

紹介

 斎藤利三の妹、菜々は美濃国(現在・岐阜県)でも評判の美人だった。菜々は不思議な娘で、嫁いでは夫に従い、老いては子に従うという女の運命に嫌気が差し、なにか面白い生き方ができないものかと探していた。ある日、隣家の明智光秀が訪ねてきて、突拍子もない申し出をしてきた。土佐(現・高知県)の長曾我部元親が菜々を嫁に取りたいというのである。何が悲しくて四国の地の果てまで嫁にいかなければならないのか。訝る利三だが、菜々は二つ返事で嫁に行くと決めた。地の果てにいけば何かが変わるかもしれない。不思議な娘だった。
 夫となった長曾我部元親は不思議な男だった。戦争が恐ろしいといいながら、周辺国に戦争を仕掛けまくる。権謀術数を弄しながらも、己のなした悪逆を恐れ相手が気の毒だと青ざめる。
 そんな夫婦二人が手に手を取り合って、謀略の限りを尽くして土佐一郡から天下を掴もうと志す。その志に従って、北の本山氏を籠絡し、東の安芸氏を叩き潰し、西の一条氏を謀略で切り崩して土佐を統一した。はたして彼の謀略は天下に届くか。長曾我部元親は無鳥島の蝙蝠で終わるのか、それとも蓬莱宮の寛典になれるのか。

 土佐の出来人、長曾我部元親の一代記。都から遠く離れたド田舎の土豪は天下をめざし進む。織田信長を目指した冷酷なる臆病者は、権謀策術を以て領地を広げ、遂に信長と対峙した。田舎侍ゆえのコンプレックス、世間を測る怜利なまなざし、どこかまぬけな親しみやすさ。一般の英雄像とはやや離れた、リアルな人間としての元親がえがかれており、姫若子の本質に迫っている。
 田舎侍だからこそ京都の礼儀作法を必死になって学んで、バカにされないように取り繕わなければならないというのはいつの時代の、どこの世界でも変わらない田舎者の悲しい習性なのだなと思う。
 途中で挿入されるうわなり打ちの一件は、司馬遼太郎らしからぬドタバタ感で女子供がキャッキャと騒ぎながらも、やっていることは女同士の殴り合いであり、結果的に人死まで起こっていて、戦国時代の風習の野蛮さが面白い。

時代設定

菜々が長宗我部家に輿入れしたのは永禄6年(1563年)、カナメモチの芽が出ている秋。
織田家と長曾我部家の関係が決裂したのは天正9年(1581年)後半。

書誌情報

著者:司馬遼太郎
タイトル:夏草の賦 上
出版社:文藝春秋
出版年:1968.1
備考:初版は1巻。文春文庫化時に上下巻に分巻。


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