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【小説】伊東潤「野望の憑依者」:南北朝時代

野望の憑依者(よりまし) (徳間文庫)

野望の憑依者(よりまし) (徳間文庫)

「それがしは民のため、この世を少しでもよきものにすべく起っただけにございます」
 そう言い残すと、軽く一礼し、正成は去っていった。
 ──何という男だ。
 もしそれが本音なら、己とは全く違った存念(価値観)を持つ男に、師直は会ったことになる。
 ──民のためだと。ふざけるな。
 広縁を行くその小さな背を見つめつつ、師直は思った。
 ──この男とは、殺し合う運命にある。
 師直は正成に強い憎悪を抱いた。

データ

ジャンル:歴史小説
主人公:高師直
主な歴史人物:足利尊氏足利直義高師泰佐々木導誉楠木正成楠木正行
時代背景:鎌倉時代室町時代南北朝時代
 元弘3年3月15日(1333年4月29日) - 北朝の観応2年2月26日(1351年3月24日)。

紹介

 高師直は足利氏に代々執事として仕えてきた高一族の当主。ニヒルな性格で、人の世は欲望の渦巻く巷だと端から決めてかかっている。時は折しも鎌倉時代末期、主君の足利高氏(のちの尊氏)は執権の北条氏から、幕府討滅の兵を挙げた後醍醐天皇を追討する命令を請ける。この好機に師直は幕府を裏切り、後醍醐天皇に近づいて六波羅探題を逆に攻撃するよう主君の耳元で囁く。優柔不断で躁鬱気質ながらも天賦の軍才を持つ尊氏は師直にうまく転がされ、見事に六波羅探題を滅ぼして後醍醐天皇が打ち立てた建武の新政権で重要な位置を占めるに至る。だが、それは更なる権力闘争の序章でしかなかった。
 師直にとって、この世に生きる人間は誰もが自分が一番可愛く、欲望に満ちているのが当たり前であった。それを上手に表出できる者こそ生きる価値のある者であり。それを受け入れずに聖人君子のような顔をしている者は生きる価値のない馬鹿者であった。阿野廉子佐々木道誉のような我が世の春を謳歌する者たちも欲望を上手にコントロールし、栄華を極めることができたと師直は見ていた。しかしある日、師直は楠木正成というおかしな武士に出会った。彼は無私の精神なるものを説いていた。生かしては置けないと思った。

 自分の欲望を理解し、手に入れられるものをすべて手にすると自分自身を過大評価する師直だが、絶対的な聖域を知らず知らずのうちに自分の心に設けてしまっていた。人は自分の生まれからは逃れることはできず、それは悪人であっても例外ではないのかもしれない。
 自らを悪人と任じながら、主君である足利尊氏には厚い忠誠心を持ち、畜生になり切れない高師直と、頭でっかちで頑固な足利直義による権力の引っ張りっこが主題。
 子どものころから近く仕え、成長を見てきた足利尊氏は、師直の視点からでは何歳になってもすぐに鬱になってしまう頼りない足利の又太郎だったようだが、降伏勧告を受け入れるときや、師直死後に待っていた顛末をみると、師直も直義も彼の掌で踊らされていただけなのかもしれない。

時代設定

高師直北条高時邸に闘犬に行ったのが元弘3年3月15日(1333年4月29日)。
高師直が殺害されたのが北朝の観応2年2月26日(1351年3月24日)。

書誌情報

著者:伊東潤
タイトル:野望の憑依者(よりまし)
出版社:徳間書店
出版年:2014.7
備考:

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所収の『師直の恋』と『狼藉なり』は高師直が主人公である。
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