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【小説】周防柳「蘇我の娘の古事記」:飛鳥時代

蘇我の娘の古事記 (時代小説文庫)

蘇我の娘の古事記 (時代小説文庫)

  • 作者:周防柳
  • 発売日: 2019/02/14
  • メディア: 文庫

「それで?」
「どうなったの?」
 いよいよ目が見えなくなると、おねだりはもっと強くなった。
「コダマはもっとおもしろいお話が聞きたい!」
 恵尺はコダマが哀れだった。その目が見えなくなったのはわが罪業のせいだと思っていた。あの恐ろしい乙巳の変におのれが加担したために、この子をこんなひどい目に遭わせた。この子の目に見える世界は失われた。ならばせめて心の中の世界くらいは広げてやろう、そのためなら、なんでもしてやろう――。そう決心した。

データ

ジャンル:歴史小説
主人公:コダマ
主な歴史人物:船恵尺、道昭、蘇我入鹿皇極天皇中大兄皇子天智天皇)、中臣鎌足大海人皇子天武天皇)、大友皇子弘文天皇
時代背景:飛鳥時代
 白雉元年(650年) - 持統天皇元年(687年)春

紹介

 乙巳の変の折、百済系渡来人の末裔の船恵尺は豊浦大臣・蘇我蝦夷の屋敷で国史を編纂していたが、命からがらに屋敷から落ち伸びた。
 恵尺には三人の子どもがいた。一人は長男のオオタカ。のちに出家し道昭と名を変え、玄奘三蔵に仕えて名僧として名を残した。一人は次男のヤマドリ。家族をよく助け、船氏の次期当主となり庚午年籍の編纂にあたることになる。そしてもう一人は長女のコダマ。幼いころに視力を失うが、それを補って余りある聴覚と記憶力を持つ少女であった。娘を不憫に思った恵尺は方々から古老を呼び寄せ、昔語りを聞かせ彼女を楽しませた。本当は彼女は蘇我入鹿の遺児だった。
 蘇我本宗家は中大兄皇子中臣鎌足に滅ぼされ、世の中は大きく移り変わった。しかし、出自を隠されたコダマは船氏の娘として幸せに成長していた。
 
 大化改新から壬申の乱にいたるまでは、この国でもっとも天皇たちが血なまぐさく、精力的に権力を確立してきた時期といえる。この時期に、天皇たちの正統を顕彰する国家事業として日本書紀古事記も生まれ、それぞれに含まれた政治的な意図を隠しながらも両書は神話として現代に語り継がれてきている。コダマの父である船恵尺はそんな歴史編纂家の一族の当主であった。
 本作では現世に生きる王族と豪族たちの権力闘争と、各章で挟まれる古老たちがコダマに語る日本神話が、示唆的に重なり合って重層的な世界観を演出する。王族と豪族たちにとっても神話は既知の物語であり、ときにはそれを意図的に利用し、ときには無意識に行動が重なりながら、血なまぐさい政治と幻想的な物語の境界線を曖昧にしていく。
 そうやって、現実の出来事と昔語りのできごとは、経験と知識として新たな語り部の中でまじりあっていき、新しい物語が生まれて後世に受け継がれていくのだろう。

時代設定

冒頭は皇極天皇4年6月12日(645年7月10日)の乙巳の変
本編は白雉元年(650年)の春から始まり、持統天皇元年(687年)の春に道昭がコダマを訪ねるまで。
附の古事記序文の創作は弘仁元年(810年)の秋。

書誌情報

著者:周防柳
タイトル:蘇我の娘の古事記
出版社:角川春樹事務所
出版年:2017.2
備考:

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蘇我入鹿を主人公とした小説。皇極天皇と入鹿について本作同様に深い関係があったとしているが、かなり異なる解釈がされているので注意。
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