あの作品が何時代の話かわかるブログ

歴史系の創作物を集めて、年代順に紹介するブログ。歴史系の小説、漫画、ゲーム、映画などなどなんでも

【小説】安部龍太郎「バサラ将軍」:南北朝時代

バサラ将軍 (文春文庫)

バサラ将軍 (文春文庫)

「つまるところ余は、人であることに耐えられぬのかもしれぬな」
 ある日義満は西芳寺世阿弥を呼んで茶を振る舞った。
 かつて小姓として寵愛した五歳下のこの青年だけが、心を打ち割って話せるただ一人の相手だった。
「余だけではない。釈迦如来も人が執着を捨てぬかぎり、悟りに達することはできぬと教えておられる」
「されど執着があるがゆえに、人は喜びを覚えるのでございましょう」
 世阿弥がひかえ目に反論した。

データ

ジャンル:歴史小説
主人公:足利直義高師直、竹沢右京亮、足利義満、馬借の源太
主な歴史人物:足利尊氏、塩谷高貞、土岐頼遠新田義興後円融天皇
時代背景:室町時代南北朝時代
 建武2年(1335年)2月 - 応永15年7月22日(1408年8月13日)

紹介

 室町幕府の勃興期から足利義満による黄金期までの期間を舞台にした短編集。裏切り、寝返り、そして殺し合わなければ生き残れなかった時代だが、人々の心にいつの時代だってあった悲しみや意地、利己心に少しの優しさを描いている。
 『兄の横顔』は足利直義が主人公。巨大な兄へのコンプレックスを一人で脹らませる足利直義が気の毒。武将の格は武勇や知謀ではなく、生まれ持った資質で決まるという残酷な事実が弟の心をえぐる。最後に見た恐るべき尊氏の横顔は、弟の劣等感が産んだ虚像なのかそれとも兄の本当の姿なのか。
 『師直の恋』は高師直が主人公。磯のアワビの片思い。師直だって人間だし、恋だってする。師直の童貞力で室町幕府がやばい。
 『狼藉なり』も高師直が主人公。上皇に弓引いた天下の大罪人土岐頼遠の処断をめぐる直義と師直の暗闘。愚かな乱暴者として描かれがちな頼遠だが、本作では爽やかでひとかどの婆娑羅者だった。師直が惚れ込むのも直義が殺したがるのもわかる気がする。
 『知謀の淵』は竹沢右京亮が主人公。新田義興を謀殺するという大功を挙げた名も無き武士の話。とにかく陰鬱な一作。日常的に裏切りが横行する太平記では感覚が麻痺しがちだけど、人を裏切るというのはそういうこと。
 『バサラ将軍』は足利義満が主人公。絶対者として育てられた足利義満が、思いのままになるものと思いのままにならないことを知り、満足を覚える。
 『アーリアが来た』馬借の源太が主人公。将軍足利義持に献上された象のアーリア。権力者たちはいつも策謀に踊るけど、庶民たちにそんなことは何も関係ないし、ときには侠気だってみせる。そんな爽やかな話。

時代設定

『兄の横顔』は護良親王征夷大将軍を解かれてから3ヶ月後の建武2年(1335年)2月からはじまり、中先代の乱で敗れた足利直義が尊氏と合流する建武2年8月6日(1335年8月24日)まで。
『師直の恋』は高師直が歌会に参加した北朝の暦応3年9月9日(1340年9月30日)からはじまり、葵に夜這いをかけるのは11月。
『狼藉なり』は土岐頼遠光厳上皇の牛車を射た北朝の康永元年9月6日(1342年10月6日)から処刑された12月1日(12月29日)まで。
『知謀の淵』は新田義興に味方して竹沢右京亮が出陣した南朝の正平13年10月10日(1358年11月11日)から右京亮が横死する10月15日(11月16日)まで。
『バサラ将軍』は後円融天皇が花の御所に行幸した北朝の永徳元年(1381年)3月から永徳3年3月3日(1383年4月6日)まで。
『アーリアが来た』は象が献上されてから5日後の応永15年6月27日(1408年7月20日)から7月22日(8月13日)まで

書誌情報

著者:安部竜太郎
タイトル:バサラ将軍
出版社:文藝春秋
出版年:1995.5
備考:初版タイトル『室町花伝』。文春文庫化時に『バサラ将軍』に改題。

関連記事

足利義満を主人公にした小説。
rekisyo.hateblo.jp
高師直を主人公にした小説。
rekisyo.hateblo.jp


年表はこちら

rekisyo.hateblo.jp