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【小説】伊東潤「疾き雲のごとく」:戦国時代

疾き雲のごとく (講談社文庫)

疾き雲のごとく (講談社文庫)

「わが名は──」
 僧は一呼吸置くと思いついたように言った。
「早雲と」
「でまかせだな」
「はい」
 僧が何ら悪びれず答えたので、茶々丸も苦笑した。
「いずれにしても、よき名だ」
「拙僧も、あの雲のように自在に空を飛びたいものでござる」

データ

ジャンル:歴史小説
主人公:伊勢宗瑞(北条早雲
主な歴史人物:太田道灌、扇谷上杉定正足利茶々丸、大森藤頼、今川氏親、三浦道寸(三浦義同)
時代背景:室町時代(戦国時代)
 文明8年(1476年)6月 - 永正13年7月11日(1516年8月9日)

紹介

 戦国関東の覇者・後北条氏、その始祖となった北条早雲こと伊勢宗瑞を、人生の一場面において彼と深く関わった6人の物語を通して描く短編集。
 「道灌謀殺」の主役は表題にもあるように、扇谷上杉定正の家宰・太田道灌駿河国(現・静岡県)守護・今川義忠が戦死したのちに起こった跡目争いを調停するため、駿河に赴いた道灌が、途中で立ち寄った寺で宗瑞を名乗る若い僧と交流を深める。
 「守護家の馬丁」の主役は扇谷上杉定正の馬丁・彦三。鎌倉武士に憧れて武芸百般に通じ、見事な馬「龍驤」を駆って戦場を駆け巡った扇谷上杉定正が、いよいよ長年の宿敵・山内上杉顕定との決戦に挑む。
 「修善寺の菩薩」の主役は堀越公方足利政知の子・足利茶々丸。継母と異母弟を斬り、実力で堀越公方を継承した茶々丸だが、もう一人の異母弟・足利義澄が京で将軍の座に就いたことによって窮地に陥る。骨肉の争いに明け暮れる茶々丸が唯一心を許せるのは、遊女の香月だけであった。
 「箱根山の守護神」の主役は小田原城の元の持ちぬし、大森氏頼の依頼を請けて箱根に祈願時を立てることとなった盲目の僧・玄舜。しかし、氏頼が死んで子の藤頼が跡を継ぐと、金銭の支援が立たれてしまった。
 「稀なる人」の主役は伊勢宗瑞の姉の子である駿河国守護・今川氏親。叔父の宗瑞の要請によって、山内上杉顕定との決戦に出陣する。
 「かわらけ」の主役は三浦道寸の兵に寺を焼かれ、家族を殺され恨みを持つ僧侶・妙謙。生き場のない彼は、三浦勢に敵対する伊勢宗瑞の軍中に身を投じる。

 戦国時代初期の関東は古河公方堀越公方山内上杉家扇谷上杉家といった旧勢力の担い手たちが千切れになって乱立し、互いに相食む様相を呈していた。そんな関東に乱入し、旧勢力たちを一気に食い尽くしたのが後北条氏、そしてその後北条氏の礎を築いたのが北条早雲こと伊勢宗瑞である。ただし、本作は宗瑞をメインテーマとしていながらも、宗瑞自身の登場は思ったより多くはない。むしろ、彼とある程度距離を置いていたにもかかわらず、彼の存在によって人生が狂わされてしまった人たちの姿を描くことによって、間接的に伊勢宗瑞という人物のスケール感を描き出すことに成功している。
 ながらく北条早雲は遅咲きの英雄とされ、歳を取ってから関東に流れ着いて第二の人生を花咲かせた人物だとされてきたが、今では研究の結果生年が大きく繰り下がり、意外と若かったことがわかっている。ともすると老・北条早雲の英雄像をはぎ取ってしまい、人物の魅力を半減させてしまう話でもあるが、本作では現在の説に合わせながらも、魅力ある新しい伊勢宗瑞像を見せていると言える。

時代設定

「道灌謀殺」は文明8年(1476年)6月の太田道灌駿河行から文明18年7月30日(1486年8月29日)、伊勢宗瑞が太田道灌の謀殺を知るまで。
「守護家の馬丁」は名馬「龍驤」が体調を崩した明応3年(1494年)6月から明応3年10月5日(1494年11月2日)の上杉定正の死まで。
修善寺の菩薩」は延徳三年(1491年)4月の足利政知の死から明応7年(1498年)8月の足利茶々丸切腹まで。
箱根山の守護神」は明応元年(1492年)9月、玄舜が大森氏頼に招聘されてから明応7年(1498年)に小田原城が陥落するまで。
「稀なる人」は文亀4年(1504年)1月に伊勢宗瑞が今川氏親に援軍要請してから永正4年(1507年)春に寿桂尼正室に迎えるまで。
「かわらけ」は永正10年(1513年)に三浦道寸の兵に寺が焼かれてから永正13年7月11日(1516年8月9日)の三浦氏滅亡まで

書誌情報

著者:伊東潤
タイトル:疾き雲のごとく
出版社:宮帯出版社
出版年:2008.7
備考:初版タイトル『疾き雲のごとく : 早雲と戦国黎明の男たち』。講談社文庫化時に『疾き雲のごとく』に改題。

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