あの作品が何時代の話かわかるブログ

歴史系の創作物を集めて、年代順に紹介するブログ。歴史系の小説、漫画、ゲーム、映画などなどなんでも

【小説】北野武「首」:安土桃山時代

首 (角川書店単行本)

首 (角川書店単行本)

「しっかりせんか為造!」
茂助は友を抱きかかえた。
「お前がおらんなら、俺は村に帰らにゃ……ならんのや」
 茂助は為造が脇に抱えた侍の首を見つめる。首を貰っていこう、バチは当たらんはずだ。そうっと首へ手を伸ばす。
「泥棒、俺が侍になるんや!」
 突然、眼を開けた友に驚いて茂助は尻餅をつく。しかし深手を負っているからか、為造は力のない声で「これで侍だ!」と首を抱き直す。
「死にかけのお前が持っていても勿体ないがな」
 茂助は匕首で為造の喉を突き刺し、首を奪い取る。

データ

ジャンル:歴史小説
主人公:茂助、曽呂利新左衛門
主な歴史人物:織田信長明智光秀羽柴秀吉徳川家康荒木村重黒田官兵衛
時代背景:安土桃山時代(戦国時代)
 天正8年7月2日(1580年8月12日) - 天正10年6月13日(1582年7月2日)

紹介

 世界の北野武による、初の歴史小説と銘打たれた第一作。主人公は一介の無名の民・茂助と、落語の祖とされる曽呂利新左衛門荒木村重の謀反ののち、ひょんなことから出会った二人が、羽柴秀吉の軍中に身を投じるところから物語は始まる。本作の曽呂利は多羅尾氏とも交流のある甲賀忍者と設定され、チビとデカブツという聾の従者を従えて秀吉の隠密として活躍する。茂助は、侍になって一旗揚げるという野望を持ち、秀吉の軍中で雑兵として身を立てる決心をする。そんな明日をも知れない彼らがその場しのぎで生き抜く姿と、裏でうごめく明智光秀羽柴秀吉徳川家康という犬と猿と狸の化かし合い、そしてその結果としての本能寺の変を、北野武独自の視点から描く作品。

 とはいえ、本能寺の変・秀吉黒幕説という題材は流石に使い古されてしまっていて陳腐だ。また、暴君の織田信長、真面目な明智光秀、野心家の羽柴秀吉、狸親父の徳川家康といった主要人物たちの人物造形も、凡庸の域を出るものではない。
 それでありながら、暴力と謀略に明け暮れ、殺し合いを演じる戦国武将たちの仁義なき戦いを、ある程度読者を惹きつけて読ませるその手腕からは、北野武がこれまで培ってきたヤクザ映画という土壌と歴史小説というジャンルの親和性を感じることが出来る。血も涙もない略奪と虐殺の戦争を、滑稽なまでに冷酷に描写して見せる文章は彼の得意分野と言ってもいいだろう。
 本作は一発ネタのように突飛な「歴史の新説」や、緻密な取材による史実の描写に頼ることなく、ある種稚拙なままのスタンスながらも、だからこそこれまでに北野武の紡いできた、普遍的な人間の本性を冷徹に抉り出す作品群の一作だと言える。彼の手に掛かれば、歴史小説という題材もまた、「暴力」をスムーズに描くための舞台装置に過ぎないのかもしれない。
 何はともあれ、世界の北野は本作の映画化をもくろんでいるようなので、今はその公開を楽しみに待っている。

時代設定

冒頭の秀吉と曽呂利の対面は文禄4年(1595年)8月。
天正8年7月2日(1580年8月12日)の摂津花隈城(現・兵庫県神戸市)の陥落から天正10年6月13日(1582年7月2日)の明智光秀の首実検まで。

書誌情報

著者:北野武
タイトル:首
出版社:KADOKAWA
出版年:2019.12
備考:

関連作品

北野武監督の初時代劇作品『座頭市』。(2003年)

座頭市 [Blu-ray]

座頭市 [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/09/27
  • メディア: Blu-ray
全員悪人でおなじみの『アウトレイジ』。(2010年)

関連記事

茂助と曽呂利が出会うきっかけとなる、荒木村重謀反の顛末。黒田官兵衛が不具になった経緯も描かれる。
rekisyo.hateblo.jp
山崎の戦いの直後、清州会議を描いた作品。
rekisyo.hateblo.jp
豊臣秀吉の生涯を描いた作品。本能寺の変から山崎の戦いは3巻で描かれる。
rekisyo.hateblo.jp


年表はこちら

rekisyo.hateblo.jp