あの作品が何時代の話かわかるブログ

歴史系の創作物を集めて、年代順に紹介するブログ。歴史系の小説、漫画、ゲーム、映画などなどなんでも

【小説】塩野七生「ローマ人の物語」パクス・ロマーナ,悪名高き皇帝たち:古代

ローマ人の物語 (6) パクス・ロマーナ

紹介

 狡猾なる秀才・アウグストゥスは、慎重に慎重を期して皇帝という地位を作り上げた。
 共和制を愛した元老院議員たちは諸手を上げ彼の“共和的な政治”に賛意を示し、あんなにも拒否反応を示した「ただ一人の権力者」を許してしまった。
 皇帝の手の元、ローマによる平和がもたらされる。

紹介

 初代皇帝アウグストゥスによる見事な地盤固めの一冊。
 ただ、頑なに自身の胤にこだわったところに彼の限界が見える。
 ローマの平和と引き換えに皇帝と、皇帝の家族の幸福はほころびはじめる。
 共和政から帝政へのみごとな変革を成し遂げたアウグストゥスだが、血族からの後継者選定という君主政の致命的な欠点をすでに露呈しているのは興味深い。
 結果的にローマ皇帝は親子間での継承をあまりせずに存続していくのだけれど、それはガイウスとルキウスが早々に死んでくれたからだと思うと皮肉。

紹介

 ローマに住まう万人からの尊敬を受け、アグリッパやティベリウスをはじめとする素晴らしい隣人を得て、国を愛し国民を愛し帝政ローマの礎を作り上げた皇帝に穏やかな最期が訪れる。
 彼の得た幸福と平和を思ってみれば、家庭での不幸や、その人生唯一の失敗や、血縁に固執したことも何ほどではないだろう。

書誌情報

著者:塩野七生
タイトル:ローマ人の物語 (6) パクス・ロマーナ
出版社:新潮社
出版年:1997.7
備考:初版では第6巻。新潮文庫化時に14,15,16巻に分巻。

ローマ人の物語 (7) 悪名高き皇帝たち

紹介

 悩める二代皇帝・ティベリウスの治世。
 歴戦の軍人であり、クソ真面目が服を着て歩いているような彼には、わがままな身内や、無責任な元老院議員たちが我慢ならなかったのだろう。
 すべてが嫌になって国を捨ててもなお、国を統治する重圧を捨てられなかった彼を責任感があると評すべきか、悲しい社畜人間と評価すべきか。
 誇り高きクラウディウス氏族の見本のような男である。ヒステリーを起こすアグリッピナにギリシャ語で答えた一言に彼が一人で抱いていたストレスの重みを感じる。

紹介

 皇帝の地位という重圧に押し潰されたティベリウスは、カプリ島へ隠遁。驚くべき責任感とバランス感覚をもって帝国の統治は全うしたが、ただ自分の責任を果たすだけでは皇帝として満点とはいえない。
 皇帝一族や元老院を破滅させ、若きカリグラに全権を与えてしまった罪はティベリウスにある。
 カリグラは愚かな皇帝だが、カリグラだけが悪いわけではない。ティベリウスは自分の死後の帝国には興味がなかったのかもしれない。
 せめてゲルマニクスが生きていてくれたらなあ

紹介

 帝国を統治する能力は充分あった歴史家皇帝・クラウディウス
 彼に足りないのは、威信という皇帝に最も必要な資質だった。誠実で堅実に帝国を治めたのに、人にナメられる気質でいちいちケチがつく。
 ゲルマニクスさえ生きていてくれたなら、彼も偉大なる兄の補佐として幸せになれたのではないかと思うと、狂った帝国の歯車が悲しい。
 ティベリウスもカリグラもクラウディウスも、彼の死で人生が狂った。

紹介

 天下に名高き暴君・ネロの治世。
 だがその実態を見る限り、最高権力者という環境と精神的な幼さが彼の乱行を呼んだように見え、暴政というほどの失政はしてないように見える。
 こういう政治的なセンスはあるが、権力を与えてはいけないタイプの人間は古今わりといる。オリエントでは日常茶飯事。

書誌情報

著者:塩野七生
タイトル:ローマ人の物語 (7) 悪名高き皇帝たち
出版社:新潮社
出版年:1998.9
備考:初版では第7巻。新潮文庫化時に17,18,19,20巻に分巻。

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【小説】塩野七生「ローマ人の物語」ユリウス・カエサル:古代

ローマ人の物語 (4) ユリウス・カエサル-ルビコン以前

紹介

 共和政ローマ最大の男の前半生。スッラとマリウスの対立に時代は遡る。
 青年カエサルは平凡な元老院議員に過ぎなかったと繰り返し語られるが、海賊討伐や最高神祇官就任、権力者スッラやキケロに向けられた反骨心に彩られた物語はカエサル自身の非凡さを語るに十分だと思う。
 また、本書前半では一般的なローマ貴族の子供がどのように育つかが描かれており、非常に興味深かった。

紹介

 戦ったり裏切られたり殺したり殺されたりしながらガリアとブリタニアで奮闘するカエサル一行。あの借金王が名も実も遂げて金回りまでよくなっていく。
 二千年の昔でも、戦争は「儲かる」らしい。

紹介

 alea iacta est.(賽は投げられた。)

書誌情報

著者:塩野七生
タイトル:ローマ人の物語 (4) ユリウス・カエサル-ルビコン以前
出版社:新潮社
出版年:1995.9
備考:初版では第4巻。新潮文庫化時に8,9,10巻に分巻。

ローマ人の物語 (5) ユリウス・カエサル-ルビコン以後

紹介

 かつての盟友ポンペイウスを討ち、もはや敵無しかのように見えるカエサル
 ローマでは甘っちょろいやり方で成功を収めてきた彼だが、オリエントにいたると、なんとなくそのやり方にも危うさが見え始める。
 ポンペイウスは殺されちゃうし、お家騒動にはまきこまれるし。だがガリアでも失敗続きだったし、相手によって態度を変えないそれが彼の信念なのだろう。

紹介

 終身独裁官カエサルは寛容なる精神で果断な改革を推し進めた。あまりにも巨大な権力を纏いながらもなお、王ではないと言い張った面の皮の厚さは感嘆すら覚える。
 そんな彼も膨張し続ける矛盾に打ち勝つことはできず、凶刃に斃れた。
 友人の死を喜ぶキケロの文書が哀しい。いつだって上に立つ者は多くを背負って死ぬ。

紹介

 巨星落つ。寛容なる天才カエサルの限界を見たオクタヴィアヌスは、狡猾な秀才となる道を選んだ。
 確固たる信念を持って帝政への一里塚を打ち立てたカエサルが、独裁政治は権力者の急死に弱いという欠点までも体現したというのも彼らしくて良い。
 結局この弱点はローマが滅亡しても、今に至るまで解消されていないわけだが。

書誌情報

著者:塩野七生
タイトル:ローマ人の物語 (5) ユリウス・カエサル-ルビコン以後
出版社:新潮社
出版年:1996.4
備考:初版では第5巻。新潮文庫化時に11,12,13巻に分巻。

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【小説】塩野七生「ローマ人の物語」ローマは一日にして成らず,ハンニバル戦記,勝者の混迷:古代

ローマ人の物語 (1) ローマは一日にして成らず

紹介

 古代の王とは民衆の代表者であり、代表者だからこそ天寿は全うできない。いつだって上に立つ者は多くを背負って死ぬ。

紹介

 あっと言う間に500年。ケルトに負けたりサムニウムに負けたりしながらも堅実に力を蓄えたローマ人が、ついにイタリアの覇者になる。
 ローマは500年にして成る。なんか西洋史って民族のぶつかり合いって感じで、個人の顔があまり見えてこない。そこが魅力でもあり、とっつきにくくもある。

書誌情報

著者:塩野七生
タイトル:ローマ人の物語 (1) ローマは一日にして成らず
出版社:新潮社
出版年:1992.7
備考:初版では第1巻。新潮文庫化時に1,2巻に分巻。

ローマ人の物語 (2) ハンニバル戦記

紹介

 意外と弱いカルタゴにローマがケンカを売った第一次ポエニ戦争ハミルカル・バルカくらいしか人材いなかったのか?
 実質的な敵は自然の猛威だけで、まんまとシチリアを手にする。
 しかし敗将を罰しないローマの態度は立派だが、ほんとにそれでいいの?となるのは私が日本人だからだろうなあ

紹介

 こいつはハンニバル ハンニバル・バルカ!! 俺の国は100万の敵は恐れないがこいつ唯一人を恐れた!!(平野耕太ドリフターズ』より)

紹介

 敗将ハンニバル・バルカも偉大なるスキピオ・アフリカヌスも、あのマケドニアカルタゴでさえも時代に呑み込まれて消えてしまった。
 時代のうねりはローマのあり方までも変えていく。スキピオ・アフリカヌスは共和政ローマが生み出した最初の英雄にして、帝政への最初の綻びなのかもしれない
 ともあれ、私はカルタゴは滅ぼされるべきであると思う。

書誌情報

著者:塩野七生
タイトル:ローマ人の物語 (2) ハンニバル戦記
出版社:新潮社
出版年:1993.8
備考:初版では第2巻。新潮文庫化時に3,4,5巻に分巻。

ローマ人の物語 (3) 勝者の混迷

紹介

 もはやローマに敵はなく、微妙なバランスのもとに立っていたローマとイタリア諸国の関係も暗雲が立ち込め始める。
 数多の英傑が歪みを正そうと奮闘するが、腐った幹は簡単には立ち直らず、ローマ人の手によって同胞ローマ人の血が流れ続けた。
 それにつけてもカルタゴは存続させるべきであった。

紹介

 己の信念のために屍の山を築き、目的を達成すると手に入れた最高権力をあっさりと手放すルキウス・コルネリウス・スッラの姿が、MCUのサノスとダブって見えた。
 幸運なスッラの改革は優秀な弟子たちの手で一瞬で水泡に帰して、元老院もいよいよ前時代の遺物という趣。
 偉大なるポンペイウスの傍若無人な振る舞いによって、旧時代はズタズタにされる。
 本編影の主役ともいえるミトリダテスは、バカみたいな負け方しても何度でも立ち上がる不屈の精神がアツい。

書誌情報

著者:塩野七生
タイトル:ローマ人の物語 (3) 勝者の混迷
出版社:新潮社
出版年:1994.8
備考:初版では第3巻。新潮文庫化時に6,7巻に分巻。

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【人物紹介】伊達氏:独眼竜政宗を輩出した名家。江戸時代は仙台藩主として64万石を統治した。

伊達氏とは

 昭和62年度(1987年)のNHK大河ドラマ独眼竜政宗』。平均視聴率39.7%を記録した不世出の大傑作として、その人気はいまでも語り継がれています。
 俳優・渡辺謙伊達政宗役)の出世作であるだけではなく、お笑い芸人のいかりや長介鬼庭左月斎役)が本格的に俳優業へ進出するきっかけとなった作品でもあり、その他現在でも日本の俳優界を背負って立つ名優たちが数多く出演していました。
 主人公の伊達政宗は奥州(現・東北地方東部)の名家・伊達氏の跡取り息子ですが、幼いころに天然痘によって生死の境をさまよい、一命はとりとめますが片目を失明してしまいました。隻眼の容姿にコンプレックスを持った政宗が、誰よりも苛烈に周辺の豪族たちを討ち滅ぼして奥州の覇者となり、その先で豊臣秀吉(演・勝新太郎)という大きな壁にぶつかって天下取りの夢を失っていく生涯が描かれます。 
 今回は、その伊達氏についてご紹介します。

伊達氏略系図

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伊達氏略系図
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伊達政宗系図

伊達氏の経歴

 伊達氏は常陸国伊佐郡(現・茨城県筑西市)に住まった藤原山陰の子孫・常陸入道念西(伊達朝宗、あるいは伊達宗村)(生没年不詳)が、源頼朝奥州藤原氏征伐(1189年)に随行して戦功を上げたため、陸奥国伊達郡(現・福島県伊達市)を賜ったことが始まりとされます。
 南北朝時代の伊達行朝(1291 – 1348)は南朝に従いました。多賀城(現・宮城県多賀城市)から伊達領内の霊山(現・福島県伊達市)に陸奥国府を移し、鎮守府大将軍・北畠顕家足利尊氏征伐にも付き従うなど、南朝の重鎮として活躍しました。
 しかし、顕家が敗死、伊佐城に籠った伊達行朝も敗走して陸奥将軍府の勢力が振るわなくなると、行朝の子・伊達宗遠(1324 – 1385)は北朝に降伏しました。しかしそれ以後も室町幕府に完全に服属したわけではなく、宗遠は幕府の執事を務めたこともある出羽長井氏を攻めて米沢城(現・山形県米沢市)を奪い取ったり、奥州探題の大崎氏(斯波氏の一族)と戦って所領を奪い取ったりしています。
 さらに、9代当主・伊達政宗独眼竜政宗とは別人)(1353 - 1405)と政宗の孫の伊達持宗(1393 – 1469)は鎌倉公方と対立してたびたび戦争を起こし、勢力を拡大していきました。この過程で鎌倉公方とは対立する室町幕府との関係は逆に好転しています。
 14代当主・伊達稙宗(1488 – 1565)は婚姻外交を駆使して周辺諸大名のほとんどと縁戚関係を結び、「洞(うつろ)」と呼ばれる伊達氏を中心とした権力構造を確立しました。陸奥国には奥州探題大崎氏がいたため、元来守護は置かれていませんでしたが、稙宗は強大な権力を背景に前例のない陸奥守護に任じられています。
 しかし晩年、三男の伊達実元(1527-1587)を越後上杉氏の上杉定実の養子にし、伊達家中の精鋭をその随行につけようとしたところ、嫡男の伊達晴宗(1519-1578)の猛反対に遭い、娘婿の相馬顕胤に伊達領を割譲しようとした問題も相まって、奥羽全土を稙宗陣営と晴宗陣営に分けた大戦争に発展します。後世に「天文の乱」あるいは「洞の乱」と呼ばれた争乱は天文11年(1542年)から天文17年(1548年)の6年にわたって続き、最終的には稙宗が隠居することで終結を迎えますが、伊達家の勢力は大きく衰退してしまいました。
 この際、蘆名氏、相馬氏、最上氏、大崎氏、葛西氏らが伊達氏の勢力圏から独立し、のちに伊達氏を大いに苦しめることとなります。
 晴宗の跡を継いだ伊達輝宗(1544 – 1585)は生涯を費やして伊達氏の勢力回復に努めましたが、周辺諸大名が実力を付けてきたためにそこから抜きん出ることは難しく、更なる飛躍は輝宗の子の17代・伊達政宗(1567 – 1636)の登場を待つこととなります。

その他の伊達氏

 伊達氏の子孫として著名なサンドイッチマン伊達みきお氏は、9代・伊達政宗の弟の大條宗行の直系子孫です。
 明治時代の外交官・陸奥宗光(1844 - 1897)は、元の名前は伊達小次郎といい、常陸入道念西の子・伊達為家(生没年不詳)の子孫です。先祖が紀州徳川頼宣に仕え、以後紀州藩士として存続しました。
 留守氏、亘理氏、岩城氏、国分氏など多くの奥州の国衆が伊達氏から養子を迎え、江戸時代には伊達姓を名乗っています。また、陸奥石川氏、田村氏なども伊達氏からの養子を迎えて現在に至っています。

伊達氏の登場する作品

北方謙三「破軍の星」

破軍の星 (集英社文庫)

破軍の星 (集英社文庫)

ジャンル:歴史小説
主人公:北畠顕家
登場人物:伊達行朝(1291 – 1348)
時代背景:南北朝時代
 南北朝時代南朝後醍醐天皇に仕えた公家の北畠顕家を主人公にした小説。若くして陸奥(現・東北地方東部)の鎮守府大将軍となった顕家は、南朝のために戦い続ける。
 伊達行朝は南部師行と共に現地の有力武将として登場し、顕家の転戦に付き従う。

NHK大河ドラマ独眼竜政宗

ジャンル:歴史ドラマ
主人公:伊達政宗(1567 – 1636)
時代背景:安土桃山時代(戦国時代) - 江戸時代
 昭和62年度(1987年)のNHK大河ドラマ。平均視聴率39.7%を記録した大ヒット作であり、少年時代の政宗が発する「梵天丸もかくありたい」のセリフは流行語となった。

NHK大河ドラマ「樅ノ木は残った」

ジャンル:歴史ドラマ
主人公:原田甲斐(宗輔)
登場人物:伊達安芸(宗重)(1615 – 1671)
 伊達兵部(宗勝)(1621 - 1679)
 伊達綱宗(1640 - 1711)
時代背景:江戸時代
 昭和45年度(1970年)の大河ドラマ伊達騒動を題材にした作品。歌舞伎の『伽羅先代萩』などでながらく悪役として描かれてきた原田甲斐を再評価し、彼の目線から騒動の推移を追った。

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【小説】葉室麟「刀伊入寇 藤原隆家の闘い」:平安時代

刀伊入寇 藤原隆家の闘い

刀伊入寇 藤原隆家の闘い

「覚悟いたされよ」
 隆家の放った矢が花山院の車に向かって飛んだ。簾を突き抜けた矢は車の中にいた花山院の袖を射抜いた。
 花山院は真っ青になって震えあがった。
「隆家はわしを殺すつもりだぞ。退け、退くのだ」

データ

主人公:藤原隆家
主な歴史人物:藤原伊周、花山法皇藤原道長安倍晴明藤原定子清少納言、平致光、大蔵種材
時代背景:平安時代
 長徳元年(995年)3月 - 寛仁3年(1019年)12月

紹介

 中関白・藤原道隆は権力の絶頂にあった。嫡男の伊周は有望で、娘の定子は天皇の后となっていた。しかし、道隆の子・藤原隆家は朝廷の権力争いになじめず、強敵を求めて武芸を好む変わり者であった。
 藤原家と深い因縁を持つ花山法皇は素行が悪く、伊周・隆家の兄弟とたびたび闘乱を起こした。法皇は素性の知れない異形の武者たちを飼っており、「とい」と呼ばれた彼らと隆家は不思議な因縁で結ばれていく。

 学校の授業で刀伊の入寇を習ったとき、それを迎え撃った太宰権帥の隆家が御堂関白・藤原道長の甥で、しかも花山法皇に矢を射るほどの暴れん坊だったと知って衝撃を受けたものである。
 この時代を扱っている小説自体が少なく、刀伊入寇が題材となるとほぼ存在しないと言ってもいい。その題材に目を付けた眼力はさすがで、叔父藤原道長との権力闘争や花山法皇との因縁、王朝文化になじめない武人の隆家のやるせなさなどが新鮮。
 しかし、刀伊と藤原隆家を宿命の対決と見せたいあまりに、それまでにちりばめられた因縁があまりに卑近過ぎて、刀伊関連の下りだけ剣客小説になったかのようなスケールの小ささを感じるのがやや残念。花山院が私兵として刀伊を使い、攻め寄せる刀伊の頭目が隆家その人と刀伊の娘の間に生まれた子供というのはもはや講談の世界であり、歴史小説然とした宮中パートとのチグハグ具合の食べ合わせが非常に悪い。
 その一方で安倍晴明清少納言紫式部といったおなじみの平安文化人たちが隆家と交流し、枕草子紫式部日記から引用したエピソードを語るのは、小説の中で読むと原典とはまた違った趣があって面白い。道長をはじめとした宮中貴族たちのキャラクター造形が良い分、彼らと隆家の交流でじゅうぶん間が持ったのではないかと思ってしまう。
 不良貴族の隆家が法皇にその身も顧みず喧嘩を売り、大騒動を巻き起こすさまは名著『殴り合う貴族たち』も参考にしているだけあって、ドタバタコメディの様相も呈して平安貴族たちの知られざる一面を見ることが出来た。

時代設定

冒頭の隆家と乙黒法師の会話が長徳元年(995年)3月。
隆家の大宰権帥任期切れが寛仁3年(1019年)12月。

書誌情報

著者:葉室麟
タイトル:刀伊入寇 藤原隆家の闘い
出版社:実業之日本社
出版年:2011.6
備考:

関連作品

本作の参考資料の一つ。平安貴族たちの知られざる暴力的な側面を紹介する。

平成13年度(2001年)大河ドラマ北条時宗』の原作。本作からおよそ200年後、モンゴル帝国が博多に攻めてきた「元寇」の時期、鎌倉幕府の執権であった北条時宗を主人公とした作品。
身内の権力闘争と外敵との戦いという主題、ファンタジー要素など本作とイメージが被る部分が多い。

時宗 巻の壱 乱星 (講談社文庫)

時宗 巻の壱 乱星 (講談社文庫)


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【麒麟がくる出来事紹介】桶狭間の戦い:織田信長が乾坤一擲の決戦を挑み、「東海一の弓取り」今川義元を討ち取った。

桶狭間の戦いとは

 現在放送中のNHK大河ドラマ麒麟がくる』。
 第21回「決戦!桶狭間」では、ついに織田信長(演・染谷将太)と今川義元(演・片岡愛之助)の激突、桶狭間の戦いが描かれました。激闘の末に織田軍の毛利新介(演・今井翼)が義元の首を討ち取り、信長は天下取りに向けて大きな一歩を踏み出しました。今川氏と織田弾正忠家は、信長の父・織田信秀(演・高橋克典)の代から長きにわたる抗争を繰り広げており、桶狭間の戦いはその戦いの終止符を打つ意味でも重要な戦いでした。
 発端は永禄3年5月12日 (1560年6月5日)、今川義元が大軍を率いて駿府(現・静岡県静岡市)を出陣したことに始まります。1週間後に三河沓掛城(現・愛知県豊明市)に入った今川軍は、5月18日(6月11日)に松平元康(のちの徳川家康)(演・風間俊介)率いる三河勢を先行させ、前線となる鵜殿長照(演・佐藤誓)の守る大高城(現・名古屋市緑区)に兵糧を搬入しました。
 翌日の5月19日(6月12日)深夜、松平元康と朝比奈泰朝が丸根砦(現・名古屋市緑区)および鷲津砦(現・名古屋市緑区)を攻撃すると、信長はわずかな供だけを連れて清州城を出撃します。この際、遅れてきた軍勢を待つために熱田神宮に立ち寄り、戦勝祈願をしたことがよく知られています。
 この間にも今川軍の猛攻は続き、丸根砦・鷲津砦は陥落、丸根の守将・佐久間盛重(演・室山和廣)、鷲津の守将・飯尾定宗、織田秀敏(ともに織田信秀のいとこといわれる)らは討死しました。さらに、佐々隼人正(成政の兄)(演・内浦純一)と千秋季忠(斎藤道三との戦いで戦死した千秋季光の子)もわずかな兵で攻撃をかけ、玉砕しています。
 彼らが奮闘する中信長の本隊は進軍を続け、織田家臣・梁田政綱(演・内田健司)からの情報提供もあり、ついには今川軍の本陣を発見します。おりしも視界不良となるほどの豪雨が辺りを襲い、乱戦の中で服部小平太(演・池田努)が今川義元に槍をつけ、毛利新介が討ち取りました。この時の今川義元の抵抗はすさまじく、服部小平太は膝を斬られ、毛利新介は左手の指を食いちぎられたと伝えられています。今川義元が討たれた主戦場となった現場は名古屋市緑区有松町大字桶狭間豊明市桶狭間古戦場伝説地、所在不明の「田楽狭間」や「おけはざま山」などが挙げられていますが、特定はされていません。
 義元が討たれたと知った今川軍は戦意を喪失し、駿河に撤退しました。松平元康は今川家と袂を分かって旧領の岡崎城(現・愛知県岡崎市)に入城しています。
 今川諸将の中で鳴海城(現・名古屋市緑区)を守っていた岡部元信だけは頑強に抵抗し、義元の首級と引き換えに開城、撤退中に刈谷城(現・愛知県刈谷市)を攻略して守将の水野信近を討ち取る戦功を上げています。
 この戦闘に勝利したことで信長は三河方面からの脅威を消し去り、美濃(現・岐阜県南部)の斎藤義龍(演・伊藤英明)との戦いに注力することができるようになったのでした。

関係地図

黄:織田信長 青:今川義元 赤:徳川家康 茶:水野信元

桶狭間の戦いの登場する作品

宮下英樹センゴク外伝 桶狭間戦記」

ジャンル:歴史漫画
主人公:今川義元
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第1話「方菊丸」より
 人気歴史漫画「センゴク」の、今川義元の生涯を描いた番外編。若き日の今川義元織田信長を主軸として、戦国時代の到来の要因として「小氷河期」によるコメ不足を指摘したり、織田弾正忠家の強壮の秘訣を銭の力によるものだと指摘し、のちの織田家の興隆の原点としたりするなど、両家の政治・軍事の違いや共通点を探りながら意欲的な評価を下している。

中村彰彦桶狭間の勇士」

桶狭間の勇士 (文春文庫)

桶狭間の勇士 (文春文庫)

ジャンル:歴史小説
主人公:毛利新介、服部小平太
 桶狭間の戦い今川義元を討つ功を挙げて、歴史に名を残した毛利新介と服部小平太の両名。しかし、彼らがその後どんな人生を歩んだのかはあまり知られていない。
 信長の嫡男・信忠に仕えた新介と、豊臣秀吉に仕えた小平太の両名が送った、桶狭間のその後の人生が描かれている。

伊東潤王になろうとした男」所収「果報者の槍」

王になろうとした男 (文春文庫)

王になろうとした男 (文春文庫)

ジャンル:歴史小説
主人公:毛利新助(新介)
 桶狭間の戦い今川義元を討ち取った毛利新助だが、あくまで武辺者の彼はどうも出世というものがわからない。朋輩の塙直政や軽輩の藤吉郎が頭を使い出世していく中、新助は己の力を発揮できる場所を見つけられずにいた。
 しかしある日、敗軍の中で主君の信長と語り合う機会を得た新助は、思わずその生き方を肯定される。それだけで十分だった。

NHK大河ドラマ麒麟がくる

ジャンル:歴史ドラマ
主人公:明智光秀
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第21回「決戦!桶狭間」より
 令和2年度(2020年)の大河ドラマ明智光秀(演・長谷川博己)の若き日の物語。
 第20回「家康への文」と第21回「決戦!桶狭間」で桶狭間の戦いが詳細に描かれた。今川の大軍を迎え撃とうとする信長が、冷静に彼我の戦力を分析し、今川軍が兵力を分散させているため、本陣に乾坤一擲の攻撃を掛ければ勝利も可能であると喝破するシーンが圧巻。信長の計算高い冷静な頭脳が光る場面であった。
 また、片岡愛之助演じる今川義元が、従来の公家的なイメージではなく本陣に敵が侵入してもなお自ら刀を取り、奮戦の末に戦死するという描写も話題となった。


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【小説】仁木英之「レギオニス 興隆編」:戦国時代

レギオニス 興隆編 (中公文庫)

レギオニス 興隆編 (中公文庫)

「母上の言葉がなければその思いに至らなかったのは愚かである。此度のこと、責は林新五郎、柴田権六両名にあると厳しく𠮟りおく。追って沙汰があるまでは表立ったことをせず、己を慎んでおれ」
 言い終えると次に権六に目を向けた。
「お前は父の信も厚く、勘十郎を任されながら正しき道を示すことができなかった。弟の側にいてはまた道を誤らせることになるやも知れぬ。今後のことをよく思案せよ。次に誤れば許さぬ」
 続いて罰を言い渡されるのかと思っていたら、話はそこまでだった。

データ

主人公:柴田勝家
主な歴史人物:毛受惣介(勝照)、織田信勝織田信長林秀貞、佐久間盛重、木下藤吉郎
時代背景:室町時代(戦国時代)
 天文19年(1550年)年夏 -永禄3年5月19日(1560年6月12日)

紹介

 尾張国愛知郡下社村(現・名古屋市名東区)の小土豪である柴田勝家は安祥城での負け戦で立てた武功によって、主君の織田信秀から三男の信勝の傅役に任じられた。勝家は身の丈に合わない抜擢に戸惑いながらもその命に服するが、のちのち跡目争いに巻き込まれるのではないかと一抹の不安も感じていた。
 織田弾正忠家の勢力を飛躍させた「尾張の虎」織田信秀の早すぎる死は、勝家が心配したとおりに嫡男の信長と母・土田御前の支持を得た信勝の争いをもたらした。信長の治世はそこそこうまく回り始めていたが、荒子城(現・名古屋市中川区)主の四男に過ぎない前田利家や、素性の知れない滝川一益などの小身者を側近く使い、それに不満を持った旧来の家臣たちが信勝に心を寄せたのである。ついに信長の第二の家老であった平手政秀が信長と対立して腹を切る事態が起こると、弾正忠家の主家にあたる織田大和守信友や、信長の第一の家老として付けられたはずの林秀貞も反信長の旗幟を明らかにした。
 ついに信勝は弾正忠家の当主を僭称し、信長との決戦に臨む。戦闘経験に乏しい信勝は、勝家を総大将として全軍の指揮を任せることを表明した。兄弟の争いに自ら出馬しない信勝に疑問を抱きながらも勝利を確信して当たる勝家だったが、信長の鮮やかな采配の前に完敗を喫してしまう。
 勝家と共に信長の前で許しを請う信勝だったが、敗戦の責を家臣たちにひっかぶせ、その姿は見苦しく敗北を認めない態度を顕わにしていた。土田御前のとりなしで信勝の一命は許されたが、信長は「傅役として弟に二度と道を誤らせるな」と勝家に厳命した。

 桶狭間の戦いで鮮烈なデビューを果たした信長だが、そこに至るまでには同族間での血みどろの権力闘争を勝ち抜いてきて尾張統一を果たしている。あまり描かれることはないが、その間に何人もの織田姓の同族を手に掛けており、その中でも最大の敵が実弟の織田勘十郎信勝だった。
 タイトルの「Legatus legionis」はラテン語で軍団長を意味しており、のちに織田家北陸方面軍司令官となる柴田勝家の視点から、若き日の信長と織田家の軍団長となる若者たちの戦いを描いている。
 織田家の筆頭家臣であり、信長死後の主家乗っ取りを画策する羽柴秀吉の野望を阻もうとする忠臣として描かれることが多い柴田勝家だが、彼は信長の弟の信勝に与して信長に謀叛を起こした前科がある。一度は信勝の軍を率いて信長と刃を交えて敗れ、それにも懲りずに再び謀叛を起こそうとした主君を信長に売り、その死を招いた実績がある。
 その十字架を背負いながら、勝家は織田家の中でどのように自分の位置を占めるか試行錯誤を続けるのだった。

時代設定

物語の冒頭は水野信元が今川氏に寝返った天文19年(1550年)年の夏。
桶狭間の戦いが永禄3年5月19日(1560年6月12日)。

書誌情報

著者:仁木英之
タイトル:レギオニス 興隆編
出版社:中央公論新社
出版年:2018.10
備考:

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